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『本当にあった怖い歯周病の話』
~「毎日10分磨いていた」彼が、なぜ歯周病になってしまったのか~

こんにちは。NK dental TOKYO 院長です。
今日は、ある患者様とのエピソードをお話しさせてください。 タイトルに『怖い話』とつけましたが、これはオバケが出るような怖さではありません。 一生懸命頑張っている人ほど陥りやすい、「良かれと思ってやっていたことが、実は裏目に出ていた」という、なんともやるせない、もどかしいお話です。
このブログを読んでくださっている皆さんは、きっと歯に対する意識が高い方々だと思います。 だからこそ、今回の話は他人事ではありません。 「あ、私もそうかも……」と、ご自身の毎日の習慣を振り返るきっかけにしていただければと思います。
真面目で努力家なAさんの来院

その患者様、Aさん(40代男性)が当院にいらっしゃったのは、少し肌寒くなってきた頃でした。 とても礼儀正しく、身だしなみも整った方で、お仕事に対する誠実な姿勢が会話の端々から感じられるような、素敵な紳士でした。
来院のきっかけは、「最近、食事の時に奥歯がなんとなく痛む」「ふと鏡を見たら、歯ぐきが下がっているような気がする」というご不安からでした。
初診のカウンセリングで、私はいつも患者様の生活背景や、歯に対する思いをお伺いしています。 そこでAさんは、少し照れくさそうに、でも確固たる意志を持ってこう教えてくれました。
「院長、私は歯磨きにはかなり自信があります、結構毎日磨いてるんで」
お話を伺うと、Aさんのご両親は重度の歯周病に苦しまれ、若くして入れ歯生活になってしまったそうです。 大好きだった料理を噛めずに苦労するご両親の姿を見て育ったAさんは、子供心に強く誓ったそうです。 「自分は絶対に、歯で苦労する人生は送りたくない」と。
その強い決意は、素晴らしい習慣を作り上げていました。 Aさんは毎日、どんなに忙しくても、お酒を飲んだ夜でも、必ず洗面台に向かい、10分以上かけて丁寧に歯を磨いていたのです。
「10分も磨いているんですから、結構磨いている方だと思います」 「だから正直、歯医者に行かなくても大丈夫かなって思ってます。自分で完璧にケアできていると思っています」
そう語るAさんの表情は、努力家特有の清々しさに満ちていました。 私はその素晴らしいモチベーションに感銘を受け、「すごいですね、なかなかできることではありませんよ」とお伝えしました。 本当に、その努力は称賛されるべきものだったのです。
マイクロスコープが教えてくれた「すれ違い」

「では、実際のお口の中を拝見しましょうか」
私はAさんにユニット(診療台)に座っていただき、お口の中を診察しました。 パッと見た第一印象は、Aさんの言葉通りでした。 歯の表面はツルツルに磨き上げられ、食べカスなど見当たりません。 「ああ、本当に毎日時間をかけて磨いていらっしゃるんだな」と、その誠実さが伝わってくるようでした。
しかし。 レントゲンを撮り、当院が大切にしている『マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)』を使って、肉眼では見えないレベルまで拡大して確認した時、モニターには予想外の光景が映し出されました。
一見きれいに引き締まって見える歯ぐき。 でも、その少し内側、歯を支えている骨(歯槽骨)が、広い範囲で溶けてなくなっていたのです。
診断結果は、『重度歯周病』。 特に奥歯は、骨の支えを失い、指で触れるとグラグラと動いてしまう状態でした。 ご本人が感じていた「噛むと痛い」という症状は、虫歯ではなく、歯が揺れることによる痛みだったのです。
「Aさん……。申し上げにくいのですが、歯周病がかなり進行しています。奥歯の骨が、だいぶ少なくなってしまっているんです」
レントゲン写真を見ながらそう説明すると、Aさんは「えっ?」と声を上げ、しばらく言葉を失っていました。 怒りというよりは、狐につままれたような、信じられないという表情です。
「毎日10分も磨いていたんですよ? 親のようになりたくなくて、必死にやってきたのに……なぜですか?」
その悲しげな問いかけに、私の胸も締め付けられました。 Aさんは決してサボっていたわけではありません。むしろ、誰よりも頑張っていた。 それなのに、なぜこんな結果になってしまったのか。
そこには、Aさんのような「頑張り屋さん」だからこそハマってしまった、3つの「盲点」があったのです。
盲点①:「10分の努力」が生んだ死角

一つ目の原因は、皮肉なことに、彼が自信を持っていた「歯磨きの習慣」そのものに隠れていました。
「いつものように磨いてみてください」とお願いし、Aさんのブラッシングを見せていただきました。 すると、ある「癖」が見えてきました。
Aさんは右利きで、とても几帳面な方です。 ブラシを動かす手順、角度、力加減。それが毎日、判で押したように「全く同じ」だったのです。
人間にはどうしても、得意な動きと不得意な動きがあります。 Aさんの場合、歯の「表側」や「噛み合わせの面」は、ブラシが強く当たりすぎて歯が削れてしまうほどピカピカでした。 しかし、手首を返しにくい「奥歯の裏側」や「歯と歯の間」には、10分間のうち、ほとんど毛先が届いていなかったのです。
マイクロスコープでその部分を拡大すると、そこには何年も前から蓄積されたであろう歯石が、こびりついていました。 毎日10分磨いていても、そのブラシが「汚れている場所」に当たっていなければ、そこに関しては「一度も磨いていない」のと同じことになってしまいます。
これはAさんに限ったことではありません。 自分の背中を洗う時、どうしても手が届かない場所があるように、お口の中にも自分一人ではケアしきれない『解剖学的な死角』が存在するのです。 Aさんは「時間をかけること」で安心されていましたが、重要なのは「時間」ではなく、「毛先が当たっているか」だったのです。
盲点②:お口の中の複雑な『障害物』

さらに、Aさんのお口の中の環境も、歯磨きを難しくしていました。 Aさんには、過去に治療した古い詰め物や被せ物が多く入っていました。 銀歯や、保険診療のプラスチックの被せ物、そして歯を失った部分を補う「ブリッジ」です。 また、もともとの歯並びも少し重なっている部分(叢生・そうせい)がありました。
少し想像してみてください。 平らなフローリングなら、モップ掛けは簡単ですよね。 でも、家具がたくさん置いてあって、床に段差があって、さらに配線が複雑に絡み合っている部屋だったらどうでしょうか? どんなに時間をかけて掃除機をかけても、家具の裏や隙間のホコリまでは取りきれません。
お口の中も同じです。 古い被せ物や銀歯は、経年劣化で表面がザラザラしたり、歯との間に小さな段差ができたりします。 特に『ブリッジ』の底(歯のない部分)は、構造上、普通の歯ブラシでは絶対に届きません。ここを掃除するには、「スーパーフロス」や「歯間ブラシ」といった専用の道具を使いこなす必要があります。
Aさんは、普通の歯ブラシ一本で、この複雑に入り組んだ「障害物コース」に挑んでいたのです。 障害物の陰に隠れた細菌たちは、誰にも邪魔されることなく、静かに、ゆっくりと時間をかけて、歯ぐきの奥へと住処を広げていってしまったのです。
盲点③:SOSを隠してしまった「電子タバコ」

そして、もう一つ。 Aさんの病気の発見を遅らせてしまった大きな要因がありました。 それは『タバコ』です。
Aさんは、「紙タバコは体に悪いから」と、数年前に電子タバコに切り替えていました。 「ヤニもつかないし、口臭もしないから大丈夫だと思っていました」とAさん。
確かに、電子タバコは見た目の汚れは少ないかもしれません。 しかし、歯周病において注意すべきなのは『ニコチン』などの成分です。
本来、歯周病菌が悪さをすると、人間の体は「大変だ!ここが戦場だ!」と知らせるために、歯ぐきの血流を増やします。 これが、歯磨きの時の「出血」です。 「血が出る」というのは、体からの「助けて!」というSOSサインなんですね。
ところが、タバコ(電子タバコ含む)に含まれる成分には、血管をギュッと縮める作用があります。 するとどうなるか。 本当は歯ぐきの奥で炎症が起きているのに、血流が悪いせいで出血しなくなってしまうのです。
歯ぐきはピンク色で、引き締まって見える。 歯ブラシをしても血が出ない。 だから「私の歯ぐきは健康だ」と、Aさんは安心しきってしまっていました。
電子タバコが、体からのSOSサインを覆い隠す「マスク」のような役割をしてしまったのです。 痛みもなく、血も出ない。 その静けさの中で、病気だけが誰にも気づかれずに進行していく……。 これが、歯周病が『サイレントディジーズ(沈黙の病)』と呼ばれる所以です。
「頑張り」を「結果」に変えるために

Aさんの治療は、まずご自身の現状を正しく知っていただくことから始まりました。 残念ながら保存が難しい歯もありましたが、残せる歯を全力で守るためのプランを一緒に立てました。
マイクロスコープを使って、死角に残っていた汚れを徹底的に除去し、汚れが溜まりやすい古い被せ物を、精度の高いセラミックなどに置き換えました。 そして何より、Aさんの歯磨きが変わりました。 「10分の自己流」から、「ポイントを絞った3分のケア」へ。 さらに、禁煙(減煙)にも前向きに取り組んでいただきました。
今、Aさんは定期的に当院に通ってくださっています。 「院長、もっと早くここに来ればよかった。そうすれば、もっと自分歯で美味しく食事ができたのにね、でも本当に手遅れになる前でよかった」 そう言って笑うAさんの歯ぐきは、治療前よりもずっと健康的な色をしています。
院長からのメッセージ

このブログを読んでくださっているあなたに、私からお伝えしたいことは一つです。
「歯磨きを頑張っている人ほど、一度プロのチェックを受けてほしい」
ということです。
Aさんの話は、決して「歯磨きしても意味がない」という話ではありません。 むしろ、Aさんの高いモチベーションがあったからこそ、今残っている歯を守ることができています。
ただ、「自分一人で完璧にこなす」ことには限界があるのです。 どんなに運転が上手なドライバーでも、車の死角をゼロにはできません。 それと同じで、お口の中にも、自分では見えない、触れない場所が必ずあります。
美容院で髪を整えてもらうように。 ジムでトレーナーにフォームを見てもらうように。 あなたのその素晴らしい「歯を大切にしたい」という気持ちを、私たちプロに少しだけ預けてみませんか?
「私の磨き方、合ってるかな?」 「見えないところに汚れは溜まっていないかな?」
その「答え合わせ」をしに、NK dental TOKYOに来ていただきたいのです。 私たちは決して、磨けていないことを責めたりしません。 一生懸命なあなたの努力が、ちゃんと「一生自分の歯で噛める」という結果に結びつくように、足りない部分をサポートするのが私たちの仕事です。
「痛みがない」 それはとても幸せなことです。 だからこそ、その幸せがずっと続くように。 Aさんのような「もったいない誤解」をしてしまう方が、一人でも減ることを願っています。
あなたの「健口」を守るパートナーとして、いつでもお待ちしております。
NK dental TOKYO 院長

NK dental TOKYO では 審美歯科・繰り返さない自費むし歯治療・パウダークリーニング・医療ホワイトニングでみなさまのお口の健康を維持するお手伝いをしています。お口の中の状態は人によってそれぞれですが、みなさまに合った最良のご提案をさせていただきます。
一度お口の中をしっかり診査して、将来の健康に目を向けてみませんか?
院長である私がみなさまのお口の健康を守り、しっかりとサポートさせていただきます。
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当院のHPはこちら https://nk-dental-tokyo.com/
本記事のまとめ
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サイレントディジーズ(沈黙の病): 歯周病は痛みなく進行し、症状が出た時には重症化していることが多い。
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自己流の限界: 毎日長時間磨いていても、癖による「磨き残し(死角)」があれば、そこから病気は進行する。
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リスク因子: ブリッジや不適合な被せ物、歯列不正はプラークの温床になりやすく、専用のケアが必要。
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電子タバコの影響: ニコチンの血管収縮作用により出血(SOSサイン)が止まり、病気の発見が遅れることがある。
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プロケアの重要性: 努力を無駄にしないために、自分では取れない汚れや死角を管理する「定期検診」が不可欠。





